(初代会長:青木脩『社会関連会計研究』創刊号「あいさつ」より)
昭和63年9月15日の創立総会によって発足した私たちの「日本社会関連会計学会」は、ここに機関誌である「社会関連会計研究」創刊号を刊行することになった。会員および関係者の方々とともに、同慶の意を表す次第である。今後、年を追って、この機関誌を量的にも質的にも充実させることによって、本学会の発展の証としたいものと念願している。
ここに、本学会の成立までの推移を明らかにしておこう。
昭和51年4月の日本会計研究学会第35回大会の折、東西の付加価値研究者有志若干名が集まり、「企業生産性研究会」を設立したことが始まりである。その後、毎年定期的に研究会を開き地味な研究を続けるうちに、付加価値会計の基底にある「企業と社会との関連性」に関心を持つ、様々の専攻分野の研究者が、会員として、参加するようになった。それに伴い、研究領域も拡大され、欧米における社会貸借対照表や企業社会会計、さらには、現行の制度会計も含められるようになった。研究会の名称もまた、「付加価値研究会」、つづいて、「社会関連会計研究会」と改名されることとなった。この間、研究会のいささかの成果として、青木・小川・山上編「企業付加価値会計(昭和56年、有斐閣双書)」を公刊し、また、会員諸氏による関係著書・関係論文も多数発表され、斯学の発展に貢献するとともに、会計学研究者や関係者の間で相応の評価をえたものと自負するに至った。
このように推移してきた私たちの研究会も、当初7名の小人数で発足したものが、いつのまにか約60名の会員数を擁するようになり、とくに、ここ数年間の若手研究者の増加に著しいものが見られ、なんらかの組織化の必要に迫られるようになった。たまたま、数年前から、社会関連会計の啓蒙・普及を目的として、「社会関連会計事典」を編纂しようとの試みがあり、その具体化として、「企業情報ディスクロージャー事典−社会関連会計の指針−(平成2年3月公刊予定、中央経済社)」が私たちの現実的課題となっていた。そこで、これを好機として、これまでの研究会を組織化して、学会とすることとし、昨年9月の創立総会において、「日本社会関連会計学会」設立の運びとなったのである。
なお、学会設立後ただちに、かねてから私たちの研究に多大の影響を与えておられる黒澤清先生と阪本安一先生とに、名誉顧問としてご指導をお願いすることとし、幸いにも両先生のご快諾をえた。このことは、若手の多い私たちの学会にとって、誠に心強いことであり、あげて、深謝しなければならない。
さて、本学会の研究対象である「社会関連会計」については、その意義・内容について定説が確立しているわけではなく、今後の研究活動に待つところが大きい。しかしながら、少なくとも、「企業と社会との関連性」、「企業の社会的責任」を視点として、会計学の新たな拡充・再編を目指すものとの共通認識については合意をえているものと考える。私たちが、当初、研究会を組織した1970年代は、公害問題などで、企業の社会関連性が、切実な課題として重視されていた時代であり、また、欧米で社会貸借対照表などが提唱されたのも同じ1970年代であった。ところが、1980年代に入るにつれて景気の後退と低迷がつづくと、ともすれば、企業の経済的責任のみを偏重し、社会的責任に目をつぶるような風潮が見られるようになった。しかるに、周知のごとく、ここ数年来、にわかに企業の社会的責任やその面からの会計制度の不備が問われるような数々の不幸な事態が露呈してきた。このことは、私たちの社会関連会計研究の重要性を再認識するよすがともなり、私たちの研究に新たな刺激を与える契機ともなるものと思われる。
それはともかくとして、現代の成熟した経済社会においては、企業行動の社会に及ぼす影響は、プラス的にもマイナス的にも、非常に大きい。これらの対社会的影響を明確にし、社会の繁栄と人間生活の向上に貢献することが、現代の企業に課せられた社会的責任である。この意味からも、私たちの学会に与えられた使命は、重かつ大といわなければならない。私たち会員一同も、一時の流行や風潮に囚われることなく、地道で継続的な研究を通じて、斯学の発展に努め、もって、社会に貢献するよう、常に自戒することが必要であろう。
私たちの学会の当面の課題としては、本年5月30日開催予定の第2回大会の成功と機関誌第2号の編集および「企業情報ディスクロージャー事典−社会関連会計の指針−」(執筆者のすべてが本学会会員)の公刊があげられる。会員および関係者の方々の一層のご協力をお願いしたい。
さいごに、本創刊号の刊行についてご尽力をいただいた方々に対し、心からお礼を申し上げて、あいさつの言葉を終わらせていただくことにする。